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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)75号 判決 2000年3月02日

原告

エーアンドエフトレードマーク,インコーポレーテッド

代表者

訴訟代理人弁護士

松浦康治

斎藤三義

土井輝生

被告

株式会社デビッド

代表者代表取締役

訴訟代理人弁理士

同弁護士

米川耕一

永島賢也

福田浩久

主文

1  特許庁が平成8年審判第9573号事件について平成10年10月29日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1原告が求める裁判

主文と同旨の判決

第2原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、別紙審決書の理由(一部)写しの別紙のとおり欧文字を横書きしてなり、旧第17類「被服(運動用特殊被服を除く) 布製見回品(他の類に属するものを除く) 寝具類 (寝台を除く)」を指定商品とする登録第2107508号商標(昭和56年11月14日登録出願、平成元年1月23日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

被告は、平成8年6月13日に本件商標の商標登録をその指定商品中「被服(運動用特殊被服を除く)」につき取り消すことについて審判を請求した(審判請求の登録日は、平成8年7月9日)。

特許庁は、これを平成8年審判第9573号事件として審理した結果、平成10年10月29日に「登録第2107508号商標の指定商品中「被服(運動用特殊被服を除く。)」についてはその登録は、取り消す。」との審決をし、同年11月25日にその謄本を原告に送達した。なお、原告のための出訴期間として90日が付加された。

2  審決の理由

別紙審決書の理由(一部)写しのとおり

3  審決取消事由

審決は、被告は本件審判を請求することについて法律上の利益を有すると誤って判断し、かつ、事実認定を誤った結果、本件商標は本件審判請求の登録前3年以前に指定商品中「被服(運動用特殊被服を除く。)」について使用されていなかった旨判断したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  被告の審判請求人適格について

審決は、被告が出願した平成8年商標登録願第14812号につき本件商標を引用した拒絶理由通知がなされ、現在審査が継続中であることを理由として、本件審判について被告の請求人適格を肯定した。

しかしながら、被告出願に係る上記商標は、「Abercro-mbie & Fitch」というものであって、本件連合商標を付した商品を独占的に製造販売しているアメリカ合衆国所在のAbercrombie & Fitch Inc.(以下「フィッチ社」という。)の社名そのものであるうえ、本件商標が外国のみならず日本国内においても著名な商標であることから、被告出願に係る前記商標は、本件商標の有無にかかわらず、商標法4条1項8号,10号,7号あるいは15号の規定によって商標登録を受ける余地が全くないものである。このような状況であるのに、本件審判について被告の請求人適格を肯定することは、誤りというべきである。

(2)  本件商標の使用について

原告は、1995年(平成7年)4月1日にフィッチ社との間で商標保護契約を締結して同社に本件商標の使用権を付与し、フィッチ社は、これに基づき、それが日本に輸出されることを承知のうえで、平成8年2月、本件商標を付した被服をアメリカ合衆国所在のカネサ アメリカ インク(以下「カネサ アメリカ社」という。)に対して販売した。カネサ アメリカ社は、そのころ、同商品を日本所在の卸売業者である株式会社メインフォード インベストメント(以下「メインフォード社」という。)に販売し、メインフォード社は、同年3月に横浜港で同商品を受領した後、それから5月にかけての間に、日本国内の小売業者らに販売した(この点について、被告は、原告提出の甲号各証の記載内容には不自然なものや矛盾のあるものが存在する旨主張するが、これらの書証はフィッチ社等の通常の事務取扱いに従って作成されたものであり、数量等の齟齬も単なるミスと考えられる範囲内のものにすぎない。ちなみに、甲第14号証は、フィッチ社から商品を買い受けた買主に対する納品書と、フィッチ社に商品を納入した製造業者に対する返品伝票を兼ねている用紙を使用して作成されたものである。)。

このように、フィッチ社によって本件商標を付された被服がそのままの状態で流通している以上、たといこれを日本国内に輸入したのが第三者であるメインフォード社であるとしても、本件商標の日本国内における使用は、本件商標の使用権者であるフィッチ社によって行われたものと評価するのが相当である(なお、フィッチ社が、カネサ アメリカ社及びメインフォード社に対して本件商標の使用権を付与したとみることも可能である。)。

以上のとおりであって、本件商標は、商標使用権者であるフィッチ社によって本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において指定商品である被服について使用されていたというべきであるから、商標権者等が本件審判請求の登録前3年以内に日本国内において本件商標を取消請求に係る商品に使用していなかったとした審決の認定は誤りである。

第3被告の主張

原告の主張1,2は認めるが、3(審決取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  被告の審判請求人適格について

原告は、被告出願に係る商標は本件商標の有無にかかわらず商標登録を受ける余地がないものであるから、本件審判について被告の請求人適格を肯定することは誤りである旨主張する。

しかしながら、被告がなした商標登録出願が本件商標を引用した拒絶理由通知を受けている以上、上記登録出願が原告主張の理由によって拒絶されるか否かにかかわりなく、被告が本件審判を請求する適格を有することは当然というべきである。

2  本件商標の使用について

原告は、本件商標の使用権を付与されたフィッチ社によって本件商標を付された商品が、メインフォード社によって日本に輸入されたことは証拠上明らかである旨主張する。

しかしながら、フィッチ社が原告から本件商標の使用権を付与されている事実を認めるべき的確な証拠はない。また、原告提出の取引関係書類は、本件商標を付した商品に係るものであることが記載上不明であるのみならず、それらの記載の中には不自然なもの(特に、甲第14号証の「納品書」は返却の欄がチェックされている。)や、相互に矛盾のあるもの(特に、甲第2,第11,第14号証に記載されている「数量」には一致しないものがある。)が存在し、措信できない。また、宣誓供述書や陳述書(甲第5,10号証)は、具体的資料の裏付けを欠くものであるから、フィッチ社による本件商標の使用は未だ証明されていないといわざるを得ない。

理由

第1原告の主張1(特許庁における手続の経緯)及び2(審決の理由)は、被告も認めるところである。

第2被告の審判請求人適格について

原告は、被告出願に係る平成8年商標登録願第14812号の商標はフィッチ社の社名そのものであるうえ、本件商標が著名な商標であって、被告出願に係る上記商標は本件商標の有無にかかわらず商標登録を受ける余地が全くないものであるから、被告は本件審判について請求人適格を有しない旨主張する。

しかしながら、被告がなした前記商標の登録出願が本件商標を引用した拒絶理由通知を受けている以上、同出願が原告主張の理由によって拒絶されるかべきか否かを論ずることなく、被告が本件商標の登録を取り消すことについて審判を請求する利益を有するものと判断すべきである。原告の主張は採用できない。

第3本件商標の使用について

甲第2ないし第5号証、第7ないし第14号証(枝番を含む。以下同じ)、第16号証、第28ないし第32号証、第34号証、第36ないし第38号証、第40,第42号証及び検甲第1,第2号証を総合すれば、原告が、1995年(平成7年)4月1日にフィッチ社との間で商標保護契約を締結して同社に対して本件商標と社会通念上同一と認められる「ABERCROMBIE & FITCH」の全世界における使用権を付与し、フィッチ社は、これに基づき、それが日本に輸出されることを認識したうえで、平成8年2月、本件商標と社会通念上同一と認められる「ABERCROMBIEAND FITCH 」を付した被服をカネサ アメリカ社に対して販売し、カネサ アメリカ社は、そのころ、同商品を日本所在の卸売業者であるメインフォード社に販売し、メインフォード社は、同年3月に同商品を横浜港で受領した後、それから同年5月にかけて国内の被服の小売業者に販売したことを認めることができる。

この点について、被告は、上記甲号各証の証拠価値を論難し、特に甲第2,第11,第14号証に記載されている「数量」には一致しないものがある旨主張する。

しかしながら、上記甲号各証の記載内容は、全体としてみれば有機的に連結しているのみでなく、その中の一部には、通関関係の書類(甲第11号証)や銀行間の送金関係の書類(甲第29号証)等、客観性の高い証拠も含まれていて、これらがすべて虚偽であるとは到底考えられず、数量等の齟齬も単なるミスと考えられる範囲内のものということができる。

そして、本件商標と社会通念上同一と認められる商標の使用権を有する者であるフィッチ社によって本件商標と社会通念上同一と認められる商標を付された被服がそのままの状態で流通している以上、たといこれを日本国内に輸入したのが第三者であるメインフォード社であるとしても、本件商標の日本国内における使用は、本件商標の使用権者であるフィッチ社によって行われたものと評価するのが相当である。

第4よって、審決の取消しを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下和明 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

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